$03-00-06-23-1-0 [soundStopAll] [charaSet A 1098123710 1 キリシュタリア] [charaSet B 1098192000 1 少年] [imageSet C cut182_kst 1] [charaScale C 1.01] [imageSet D cut182_kns 1] [charaScale D 1.01] [charaSet E 1098128210 1 カイニスカットイン] [sceneSet F 10000 1] [charaFilter F silhouette FF000080] [imageSet G cut191_pdt 1] [charaSet S 5009000 1 エフェクト用ダミー] [charaSet T 5009000 1 エフェクト用ダミー] [scene 10000] [fadein black 1.0] [wait fade] @ 15歳の春の話だ。 [k] @ その頃、私にとって『未来』とは[r]輝かしいものだった。 [k] @ 私は他人より恵まれた環境にあり、[r]他人より優れた才能があり、 [k] @ 運命に選ばれた者としての自覚と、[r]使命があったからだ。 [k] @ 『[line 3]美しいものを作る。』[r]『[line 3]素晴らしいものを作る。』 [k] @ そんな思いが、情熱が、私を勤勉な学生にし、[r]日夜、[#研鑽:けんさん]に駆り立てていた。 [k] @ その結果が、 [k] [messageOff] [fadeout black 1.0] [wait fade] [pictureFrame cut063_cinema] [scene 92900] [wt 1.0] [fadein black 1.0] [wait fade] [wt 2.0] [bgm BGM_EVENT_70 0.1] @ この、不衛生で、[#醜:みにく]く、何の理想も信念も[r]生まれない、ゴミ底だった。 [k] @キリシュタリア っ[line 3]。 [k] @ 胸からの痛みに[#呻:うめ]き声を漏らす。 [k] @ 手足は一向に動かないが、幸い、[r]刺客に撃たれた胸の傷の治療はできていた。 [k] @ 父を飛び越えて後継者に選ばれた私には、[r]11代に[#亘:わた]って鍛えられた魔術刻印が備わっている。 [k] @ この魔術刻印は術者が傷を負った際、[r]なかば強制的に術者を回復させる。 [k] @ だが[line 3] [k] [messageOff] [se ad231] [charaPut F 0,-200] [charaFadeTime F 0.2 0.5] [wt 0.2] [charaFadeout F 0.2] [wt 1.0] @ 今はその魔術刻印が機能していない。[r][#呪詛科:ジ  グ]の授業で聞いたマナ[#淀:よど]み…… [k] @ 術者の神経、血液そのものを攻撃対象にした、[r]対魔術師用の毒物だろう。 [k] @ 時間が経って毒が回ったのだ。[r]魔術刻印も魔術回路も完全に死んでいる。 [k] @ こうなると自分では解毒できない。[r]第三者の手による解毒が必要だ。 [k] @キリシュタリア [line 3]っ、ぁ[line 6]。 [k] @ 状況は最悪だった。[r]衰弱していく一方の体に、敵地のただ中。 [k] @ 私が助かる道は、異常を察した祖父が[r]人を手配し、救援が来てくれる事だけだ。 [k] @ 問題は、それまで私の体力が[#保:も]つかどうか。[r]そして[line 3] [k] [messageOff] [se ad525] [wt 1.0] [se ade146] [wt 1.5] [seStop ade146 0.5] [charaTalk B] [charaFace B 0] [charaFadein B 0.4 0,-50] [wt 1.0] @少年 ……ひひ。ひひ、ひひ……。[r]おき、てる……おきてる、おきてる…… [k] [charaFadeout B 0.1] [wt 0.1] @ 父の差し向けた刺客に見つからずに[r]やりすごせるか、という事だった。 [k] [charaTalk B] [charaFace B 0] [charaFadein B 0.1 0,-50] @少年 ……ひ……ひひ……。 [k] @ [charaTalk A] ただでさえ酷い[#臭:にお]いのする地下室が、[r]よけいに悪臭を増した気がした。 [k] @ [charaTalk A] ゴミ箱から[#漁:あさ]ったコート。[r]もう何年も洗髪されていない髪。 [k] @ [charaTalk A] この地下室は、この少年の住みかだった。[r]私の身なりを見て、金になる、と思ったのか、 [k] @ [charaTalk A] 刺客に襲われ、路地裏まで這いずった私を[r]ここまで運んだらしい。 [k] @少年 ひひ……ひひひ。 [k] @少年 まだいきてる……いきてる……。 [k] [messageOff] [charaFadeout B 0.4] [wt 0.5] [se ad77] [wt 1.0] @キリシュタリア ………………。 [k] @ ゴミのつまった木箱を漁る音がする。[r]私は嫌悪感を隠しきれないでいた。 [k] @ こんな存在に助けられた、という事実が、[r]私には恥ずかしい事に思えたからだ。 [k] [charaTalk B] [charaFace B 6] [charaFadein B 0.1 0,-50] @少年 ひひ……たから、もの……[r]たから、もの…… [k] [messageOff] [se ad77] [wt 1.0] @少年 たべて……これ、たべて……。 [k] @ [charaTalk A] 少年は私の口に硬いものを押しつけた。[r]乾燥しきり、カビたパン。 [k] @ [charaTalk A] それを汚れた服の裾で拭きながら、[r]私に無理矢理食べさせた。 [k] @ [charaTalk A] はっきり言って逆効果だ。[r]傷は塞がっているとはいえ、内臓の機能は低下している。 [k] @ [charaTalk A] なによりこんなものを口にしては胃を悪くする。[r]栄養を摂るどころか体力が落ちてしまう。 [k] @少年 おいしいから……たべて……[r]たべて……たべて…… [k] @キリシュタリア ………………。 [k] @ [charaTalk A] だが拒む体力も、文句を言う元気もなかった。[r]私はやる気なく口を開け、石のようなパンを食べた。 [k] @少年 ひひ。ひひひ。ひひひひひひひ……! [k] [messageOff] [charaFadeout B 0.4] [wt 0.5] @ なんとか押しつけられたものを食べ終えると、[r]少年は満足して寝台から離れた。 [k] @ 少年は部屋の隅まで移動すると、膝を組んで座り、[r]うす気味悪い笑い声を漏らしていた。 [k] @キリシュタリア [line 3]ゴホッ。[r]ゴホッ、ゴホ[line 3] [k] @ 胸のむかつきと、[r]自分の境遇への情けなさが止まらなかったが、 [k] @ これではどうしようもない、と私は目を閉じた。 [k] [bgmStop BGM_EVENT_70 5.4] [messageOff] [fadeout black 1.5] [wait fade] @ ……どうせ数時間後にはすべて終わる。[r]刺客が魔術師であれば、私の追跡は容易だ。 [k] @ この場所は発見され、[r]私は身動きの取れないまま殺される。 [k] @ 助けは間に合わないだろう。 [k] @ この状況の私を救う事は、[r]たとえ神であっても、できはしないのだから。 [k] [messageOff] [wt 1.0] [wt 4.0] [fadein black 1.5] [bgm BGM_EVENT_11 5.5] [wait fade] @ だが。[r]刺客は何日経っても現れなかった。 [k] @ 私は硬い寝台に横になったまま、[r]おそらく、10日もの時間を生き延びていた。 [k] @ 体は依然として麻痺したままだが、[r]環境に慣れてきたのだろう。 [k] @ 私は少しずつ、[r]自分の置かれた状況を把握した。 [k] [charaTalk B] [charaFace B 6] [charaFadein B 0.1 0,-50] @少年 ひひ、ひひ……。[r]たべて……これもたべて…… [k] @キリシュタリア ……いや。[r]それより水をくれないか……? [k] @少年 …………。 [k] [messageOff] [charaMoveReturn B 0,-55 0.8] [wt 1.4] @ [charaTalk A] この部屋が橋の下に作られた物置……[r]だという事は、不幸中の幸いだった。 [k] @ [charaTalk A] 水は不純物が混じってはいるものの、[r]飲めない事はなかったからだ。 [k] [messageOff] [wt 0.2] [se ad217] [wt 0.5] [seStop ad217 0.2] [wt 0.8] @キリシュタリア ……ふう。[r]なあ。君は、いつからここに? [k] [charaFace B 6] @少年 [FFFFFF]?[-] ??? [k] @少年 ひひ……いいから、たべて、たべて。 [k] @キリシュタリア …………。 [k] @ [charaTalk A] 憶測だが、少年は数年前に育ての親を亡くし、[r]ここで暮らしてきたようだ。 [k] @ [charaTalk A] この物置……住みかは、[r]少年の育ての親が使っていたものらしい。 [k] @ [charaTalk A] 両親に捨てられたのか、[r]生まれつきの孤児だったのか。 [k] @ [charaTalk A] 少年は言語機能が欠如していた。 [k] @ [charaTalk A] 生まれてから今まで、まともに[r]会話をする大人がいなかったからだろう。 [k] @キリシュタリア 名前は?[r]それくらいは分かるだろう? [k] @少年 [FFFFFF]?[-] [k] @キリシュタリア [line 6]。 [k] @ [charaTalk A] 絶句した。名前の概念さえ知らない子供が、[r]現代の都市部にいるというのか。 [k] @ [charaTalk A] いや。それでどうやって今まで、[r]ひとりで生きてこられたのか。 [k] @少年 ひひ、ひひ……。 [k] @少年 こわい、こわい。[r]みんな、こわい。 [k] @少年 かくれる、かくれる。[r]ここ、あんぜん。[wt 1.0][line 3]いつも、あんしん。 [k] [messageOff] [charaFadeout B 0.1] [wt 0.1] [se adm57] [charaFadein G 0.4 0,-200] [wt 1.0] @ [charaTalk A] 少年は首に提げたペンダントを撫でながら、[r]そんな言葉を口にした。 [k] @キリシュタリア [line 3]それは。 [k] @ [charaTalk A] 魔術の使えない今の自分でも分かる。[r]少年が持っていたのは『姿隠し』の魔術礼装だ。 [k] @ [charaTalk A] それも凄まじいまでの年代品。 [k] @ [charaTalk A] 時計塔より古い門派、イギリスの深い森に[r]隠れ住むという『魔女』たちの呪具だった。 [k] @キリシュタリア そうか、それで[line 3] [k] @ [charaTalk A] 刺客が私を追跡できない筈だ。この部屋はいま、[r]完全に姿を消している状態なのだから。 [k] @キリシュタリア ……なるほど。それは、確かに宝物だ。 [k] [messageOff] [charaFadeout G 0.4] [wt 0.5] [charaTalk B] [charaFace B 6] [charaFadein B 0.1 0,-50] @少年 [FFFFFF]?[-] [k] @ [charaTalk A] 実の両親の遺品か、拾いものかは聞き出せなかった。[r]しかし、それで少年の状況は理解できた。 [k] @ [charaTalk A] 路地裏で私を見つけてからここまで運べたのは[r]あのペンダントあっての事だ。 [k] @ [charaTalk A] この物置に食料が保管されていたのも、[r]姿隠しで外の店から拝借してきたからだろう。 [k] @ [charaTalk A] ……幸か不幸か。 [k] @ [charaTalk A] あのペンダントのおかげで少年は[r]ひとりでも生きていける状況になっているが、 [k] @ [charaTalk A] あのペンダントのせいで、[r]他者に関わる必要がなくなってしまっていた。 [k] @ [charaTalk A] 彼は本当に、[r]社会から『見えない』立ち位置だったのだ。 [k] @キリシュタリア 君は、その[line 3] [k] @ [charaTalk A] なんと声をかけていいか分からず、[r]私は言葉を濁した。 [k] [charaFace B 8] @少年 ひひ、ひひひ……。[r]いいよ。いいよ。 [k] @少年 キレイ、きれい。[r]たからもの、たからもの。 [k] @キリシュタリア [line 6]。 [k] @ [charaTalk A] 少年はこちらの意図を理解しないまま、[r]ペンダントを大切に仕舞って、にんまりと笑っていた。 [k] @ [charaTalk A] …………思い返すと。[r]今でも、胸が痛くなる。 [k] [messageOff] [bgm BGM_EVENT_11 1.5 0.5] [fadeout black 1.5] [wait fade] [charaFadeout B 0.1] [wt 1.0] [fadein black 1.5] [bgm BGM_EVENT_11 1.5 1.0] [wait fade] @ さらに数日が経過した。[r]数点、新しい発見があった。 [k] [charaTalk B] [charaFace B 6] [charaFadein B 0.1 0,-50] @少年 いつも、みてた。『はし』で、いつも。[r]いた。みてた。 [k] @キリシュタリア [line 3]。 [k] @ [charaTalk A] ……ようやく、私も思い出した。[r]橋を渡る時に見かけていた浮浪者。それが彼だった。 [k] [messageOff] [charaTalk B] [wt 0.5] @少年 みてた。いつも。[r][line 3]いつも。 [k] @ [charaTalk A] 彼にとって私がどんな存在だったのかは、[r]もう、一生分からない。 [k] @ [charaTalk A] 分かったなどと思い上がってはいけない。 [k] @ [charaTalk A] ただ、彼にとって『橋を渡っていた誰か』は、[r]それだけの事をするに足る存在に見えていたのだ。 [k] @少年 …………。 [k] [messageOff] [charaFadeout B 0.4] [se ad77] [wt 1.0] @ 少年は無知ではあったが、愚かではなかった。[r]自分なりに今の状況を理解していた。 [k] @ まず、彼は部屋から出ようとしなかった。 [k] @ ペンダントがあろうと、[r]外に出れば私を襲った者に見つかる危険がある。 [k] @ それを考慮して、[r]軽はずみに外に出ようとしなかったのだ。 [k] @ ほぼ二週間近く私に与えられていた食料は、[r]あらかじめここに備えられていたものだった。 [k] [charaTalk B] [charaFace B 4] [charaFadein B 0.1 0,-50] @少年 …………たべもの……。[r]…………たべもの、たべもの……。 [k] @キリシュタリア どうしたんだい?[r]何か問題が? [k] [charaFace B 0] @少年 ……ひひ、ひひひ。 [k] @少年 ない、ない。 [k] @少年 もんだい、ない。[r]あんしん、あんしん[line 3]。 [k] @キリシュタリア そうか。[r]それならいいんだが。 [k] [charaFadeout B 0.1] [wt 0.1] @ この環境に慣れたとはいえ、[r]私も疲労のピークを迎えていた。 [k] @ 一向に動かない手足。戻らない体力。 [k] @ そもそも、少年が用意する食料では[r]栄養価も何もない。 [k] @ 刺客に見つからないという事は、[r]味方にも見つけられない、という事でもある。 [k] @キリシュタリア [line 6]。 [k] [messageOff] [fadeout black 1.0] [wait fade] [scene 10000] [wt 1.0] [fadein black 1.0] [wait fade] @ はあ、と大きく落胆し、まぶたを閉じる。 [k] @ 夢に落ちる間際、このまま枯れ木のように[r]腐り、死んでいく自分を想像した。 [k] [messageOff] [wt 1.0] @少年 …………。 [k] [messageOff] [wt 0.5] [se adm57] [wt 1.0] [se ade146] [wt 1.0] [seStop ade146 0.5] [se ad525] [bgmStop BGM_EVENT_11 1.4] [wt 2.0] [fadeout black 1.0] [wait fade] [wt 4.0] [scene 92900] [fadein black 1.0] [wait fade] [bgm BGM_EVENT_98 6.5] @少年 おきて、おきて。 [k] @キリシュタリア ……? [k] @ その日。[r]はじめて、少年の声で起こされた。 [k] [charaTalk B] [charaFace B 6] [charaFadein B 0.1 0,-50] @少年 ひひ……ひひひ。[r]たべもの、たべもの。 [k] @少年 たべて、たくさんたべて。[r]いっぱい。いっぱい。 [k] @キリシュタリア それは[line 3]。 [k] @ [charaTalk A] 浅ましくも私の声は弾んでいた。 [k] @ [charaTalk A] 少年の手には、バスケットいっぱいの[r]パンがあったからだ。 [k] @ [charaTalk A] 今までのように、捨てられていた余り物ではない。[r]今朝焼き上がったような、清潔なパンが。 [k] @キリシュタリア すごいな。いや、嬉しいが……パンばかりだな。[r]せっかく外に出たのなら、もっと他の食材もだね、 [k] @少年 これ、たべもの。[r]たべて、たべて。 [k] @ [charaTalk A] ……後になって気づく。[r]どうして硬くなったパンしかなかったのか。 [k] @ [charaTalk A] これまでの人生において。[r]彼にとっては、それだけが『食事』だったのだ。 [k] @ [charaTalk A] 裕福な暮らししか知らなかった私は、[r]それを分かっていなかった。 [k] @ [charaTalk A] 何より。[r]もっと、もっと大切な事に気づいていなかった。 [k] @キリシュタリア では遠慮なく。[r]うん、食べやすい。食べやすいのは、いい事だね。 [k] [charaFace B 8] @少年 ひひ……ひひひ……。[r]ひ……、ひ……[line 3]。 [k] [messageOff] [bgmStop BGM_EVENT_98 1.4] [charaMove B 0,-55 0.4] [charaFadeout B 0.4] [wt 0.5] [se ad775] [wt 1.0] @ 少年は石に[#躓:つまず]いたように、寝台に倒れ込んだ。[r]両腕が私の枕元につっかえる。 [k] @ まるで勉強机で居眠りする子供のようだった。 [k] @少年 …………。 [k] @キリシュタリア [FFFFFF]?[-] 君、どうし[line 3] [k] @ はじめから、とても、不健康そうだったから。 [k] @ 彼の痩せこけた頬にも、[r]殴られたばかりの体にも、気づかなかった。 [k] @少年 …………、ぁ。 [k] @ 彼は今までずっとひとりだった。 [k] @ 人間ふたりを二週間以上まかなえるほどの[r]備蓄など、ある筈がなかった。 [k] @ 今までの備蓄は、あのペンダントがあったから、[r]表通りの人々に見とがめられなかった。 [k] @ ここにはひとり分の食料しかなかった。[r]彼がひとりで生きていく為の蓄えだけしか。 [k] @ 私を[#匿:かくま]ってから少年は一度も外出していなかった。 [k] @ ペンダントを持って外に出れば、[r]この部屋が隠される事がなくなるからだ。 [k] [messageOff] [charaFadein G 0.6 0,-200] [wt 1.0] @ そのペンダントは、いま、私を守るために、[r]枕元に置かれていた。 [k] [messageOff] [charaFadeout G 0.6] [wt 1.0] @ 新しい食料を用意するため、[r]彼が何をしてきたかは明白だ。 [k] @ 何度も見とがめられ、制裁を受けたのだろう。 [k] @ 私を[#匿:かくま]ってから今まで。 [k] @ 満足に食事をしていなかった子供の体力は、[r]そんな暴力にすら、耐えられなくなっていた。 [k] [messageOff] [charaTalk B] [charaFace B 9] [charaFadein B 0.4 0,-50] [wt 0.4] [bgm BGM_EVENT_110 3.1] @少年 ……たから、もの……。[r]……あんしん、あんしん。 [k] @ あり得ない。いくら何でも、それはない。[r]だって愚かすぎる。浅はかすぎる。 [k] @ 彼は無知であるが賢い少年だった。[r]こんな行動を、選ぶ筈がなかったのだ。 [k] @ 彼は、ベッドに倒れ込んだまま、[r]横になった私の顔を、星を見るように、 [k] [charaFace B 11] @少年 ……キレイ……。[r]ひひ……キレイ、キレイ……。 [k] @キリシュタリア [line 3]待て。[r]待ってくれ。頼む。待って、 [k] @少年 ……ほんとうに、キレイ[line 3]。 [k] [messageOff] [charaFadeout B 0.4] [wt 2.5] @キリシュタリア [line 6]。 [k] @ その時、私の胸に飛来したものは[r]悲しみでも驚きでも、怒りでもなかった。 [k] @ ただ、自らの愚かさへの[#訣別:けつべつ]だった。 [k] @ 今まで『いないもの』として扱ってきたもの。[r]関わる事はないと区別していたもの。 [k] @ そんな視点でしか未来を見ていなかった愚か者。 [k] @キリシュタリア [line 3]は。 [k] @ 美しいものを作る?[r]生まれつきの王者? [k] @ 選ばれた天才?[r]笑わせる。いや、笑う価値すらありはしない。 [k] @ 私は分かっていなかった。[r]『美しいものを作る』などとうそぶいて。 [k] @ ただ『美しい』という言葉だけを盲信した。 [k] @ 自分にとって、何が『美しい』ものなのかを、[r]考えた事すら、無かったのだ。 [k] @キリシュタリア [line 3]、[line 6]。 [k] [messageOff] [se ad520] [wt 0.4] [seStop ad520 0.5] @ 少年の価値は変わらない。 [k] @ 彼はその愚かさ故に、[r]どうでもいい理由で命を落とした。 [k] @ 私は上級な人間であり、彼は低級な人間だ。[r]それは今後生み出すものからして明らかだ。 [k] @ だが。私にできるだろうか。 [k] @ 見も知らぬ他人の、ただ空腹を満たす為に、[r]命をかけて行動する事が。 [k] @ 自分が美しいと感じたものの為に、[r]何の見返りもなしに、その命をかける事が。 [k] @ [line 3]ああ、そんな事は、 [k] [messageOff] [wt 1.5] @キリシュタリア [line 3]無論、できるとも。 [k] [messageOff] [se ad480] [wt 1.5] [se ade161] [wt 1.5] [seStop ade241 1.0] @ 長く、長く眠っていた体を動かす。[r]比喩ではなく、魂を燃やして体を起こす。 [k] @ 自分に備わっていた魔術回路という才能が[r]物理的に損なわれていく。 [k] @ それだけの代償を、いまさらに支払って、[r]パンを食べる。 [k] @ そうだ。 [k] @ 彼にできた以上、自分もやらなければならない。[r]彼がみせた以上、自分は応えなければならない。 [k] @ 何も持ち得なかった貧者である彼が、[r]最大の善性を獲得していたように。 [k] @キリシュタリア [line 3]より高く。[r][line 3]より、強く。 [k] @ 浅ましく食料を口に運び、[r]細胞という細胞に活を入れる。 [k] @ 諦観も同情も、後悔も余計な時間だ。[r]私にはやるべき事が出来たのだから。 [k] [messageOff] [fadeout black 1.0] [wait fade] [scene 10000] [wt 0.1] [fadein black 1.0] [wait fade] @ これは外付けの理由。[r]本来、私には生まれなかった信念。 [k] @ キリシュタリア・ヴォーダイムの人生には、[r]発生しない目的だ。 [k] @ だが、その為に生きると誓った。 [k] @ 彼より多くのものを与えられた者として。[r]この命の続くかぎり、人間の価値を示し続けると。 [k] [messageOff] [wt 1.0] [bgmStop BGM_EVENT_110 2.0] [fadeout black 2.0] [wait fade] [wt 2.0] [scene 93007] [se ad914] [seVolume ad914 0 0] [seVolume ad914 1.0 0.5] [se ade393] [seVolume ade393 0 0] [seVolume ade393 1.0 0.5] [se ad913] [seVolume ad913 0 0] [seVolume ad913 1.0 0.5] [fadein black 1.0] [wait fade] [wt 1.5] @ キリシュタリア・ヴォーダイムの[#大令呪:シリウスライト]の光を受け、[r]『異星の神』はこの宙域から消え去った。 [k] @ それが損傷による退避だったのか、[r]未知の出来事への反射的行動だったのかは定かではない。 [k] @ 結果としてオリュンポスの即時消滅は回避され、[r]離宮にはマスターとサーヴァントだけが残された。 [k] [messageOff] [seStop ade393 3.0] [charaTalk C] [charaFace C 0] [charaFadein C 0.8 200,-250] [wt 2.8] [charaFadeout C 0.8] [wt 1.5] @マスター ……なんて、ね。[bgm BGM_EVENT_110 0.1][r]思えば、少し、高望みしすぎたかな。 [k] [messageOff] [charaTalk D] [charaFace D 0] [charaFadein D 0.8 -200,-250] [wt 2.8] [charaFadeout D 0.8] [wt 1.5] @サーヴァント なに笑ってんだ、テメェ。[r]締まりの無い顔しやがって。悪戯のバレた子供かよ。 [k] @ もう歩く事のない[line 3] [k] @ 胸から下が存在しないマスターの傍らで、[r]サーヴァントは悪態をつく。 [k] @ マスターは崩れ行く地面に体を預けながら、[r]穏やかにソラを見上げている。 [k] @サーヴァント すげえな、[#大令呪:シリウスライト]。[r]オフェリアの時とはまったく違った。 [k] @マスター これが本来の使い[#途:みち]だからね。[r]マリスビリー所長は私にだけ教えたんだよ。 [k] @マスター 万が一の時は、これで世界を救いなさい、と。[r]ふふ……まったく、無茶を言ったものさ。 [k] @ 語りながら、マスターはコホ、と咳き込んだ。[r]化石のような、枯れ木のような、乾いた音だった。 [k] @ 今まであった春のような、[r]歌うような口調は既に失われている。 [k] @サーヴァント そうかよ。カルデアの所長なんざ[r]軟弱なヤツしかいねえと思ったが…… [k] @サーヴァント 大それたヤツだな、その所長とやらは。[r]意外だぜ。 [k] @マスター そうだね。[r]私も、敬意は払っていたんだが、何枚も[#上手:うわて]だった。 [k] @マスター 研究にだけ生きた、学術肌の人物だったけど、[r]やはり時計塔の[#十二君主:ロ  ー  ド]は、おっかなかったな。 [k] @ はは、とマスターは笑った。[r]心の底から敗北を認める、悔いのない笑いだった。 [k] @マスター でも、意外と言えば、[r]君が[#素直に]カルデアに協力した事は意外だった。 [k] @マスター もう少し時間がかかると予想していたのに。[r]まさかの即オチとは、聞いた時は紅茶をこぼしたよ。 [k] @マスター 一度負けた相手なら誰でもいいのかな? と、[r]ちょっと拗ねもしたが。 [k] @サーヴァント 即オチじゃねえし負けてもねえ![r]ありゃあポセイドンがヘタ打った結果だっ! [k] @マスター では、なぜ? [k] @サーヴァント ……………………。 [k] @サーヴァント …………いや、カルデアの[#頭:アタマ]がよ。[r]おまえの話を聞かせろって言ってきたんだよ。 [k] @サーヴァント 『キリシュタリア・ヴォーダイムの能力ではなく、[r] 今の彼はどんな人間なのか知りたいのだ』ってな。 [k] @サーヴァント 長いこと手を貸してやった理由は[#そこ]だな。[r]ま、貸しだなんだとあったが…… [k] @マスター それは割が合わなかったね。[r]何も見返りがなかったのでは? [k] @サーヴァント そうでもない。こっちも交換に、時計塔時代の[r]テメェの話を山ほど聞き出したからな! [k] @サーヴァント 何が生まれついての王聖だ、笑わせるぜ! [k] @サーヴァント テメェほど臆病で、慎重で、[r]しつこいヤツのどこが王者だってんだ! [k] @サーヴァント ディオスクロイもオフェリアも、[r]根本的に見間違えていたってワケだ! [k] @ それが愉快で痛快だと、[r]心底からサーヴァントは笑った。 [k] @ 彼を見誤っていた者たちへの笑いではない。[r]そこまで完璧な見栄を張り続けた者への賞賛として。 [k] @マスター [line 3]、[line 6]。 [k] @ 高笑いするサーヴァントを[r]マスターは[#眩:まぶ]しげに見上げていた。 [k] @ その視界はもう霧の中のようにおぼろげで、[r]その呼吸は、既に。 [k] @サーヴァント ……おい。[r]なんかねえのかよ、おまえ。 [k] @サーヴァント 言いたい事とか、やりたい事とかあるだろ。[r]言えよ。聞くだけは聞いてやるから。 [k] @マスター [line 3]やりたい事、か。 [k] [messageOff] [wt 1.5] @ そうして彼は途切れ途切れに、短く、[r]『もしも』の話を語った。 [k] @ クリプターの蘇生には人間ひとりを[#蘇:よみがえ]らせる為の熱量、[r]因果を覆すだけの“成果”が必要だった。 [k] @ 『異星の神』は死の状態にあるクリプターの運命……[r]彼らひとりひとりの主観世界において、 [k] @ その『成果』を得るための環境を作り出した。 [k] @ あり得たかもしれない。[r]しかし決してあり得なかった、 [k] @ 主観世界の主と、そこにシフトした彼。[r]そのふたりが当事者となる、人理修復の旅である。 [k] [messageOff] [wt 1.5] @サーヴァント ……マジか。じゃあおまえは、[r]アイツらと一緒に世界を救ったのか? [k] @マスター あくまでシミュレーションだよ。[r]現実の特異点ほど恐ろしいものじゃなかった。 [k] @マスター カドックとは信頼し合えた。[r]オフェリアとは笑い合えた。 [k] @マスター 芥とは助け合えた。[r]ベリルとはすれ違えた。 [k] @マスター ペペには何度も助けられた。[r]ああ見えて[#義理人情:ぎりにんじょう]のひとだからね、[#鴉郎:あろう]さんは。 [k] @マスター ……楽しかった。理解を深める事が。[r]彼らの人生を知っていく事が。 [k] @ だが、それはすべて[#泡沫:うたかた]の夢。[r]彼が『成果』を出した時点で消え去る幻。 [k] @ 苦しくも有意義だった旅を覚えているのは、[r]この世界では彼だけだった。 [k] @サーヴァント [line 3]それで連中にあの態度かよ。[r]おまえ、心が鉄でできてんのか? [k] @マスター 仕方、ないだろ。[r]こんな事を話されても、混乱、するだけだ。 [k] @マスター ……うん。[r]あれは、私が見た夢だと、仕舞い込んだんだよ。 [k] @ 厳重に、もう取り出せないように。[r]何があろうと、決して色あせる事のないように。 [k] @マスター ……しかし、人理修復の旅、か。[r]ふふ。不謹慎な物言いだけどね。 [k] [messageOff] [wt 1.0] @マスター かなうのなら。[r]Aチームのみんなと、世界を救いたかったなぁ。 [k] @サーヴァント [line 6]。 [k] @ 彼はリーダーとしてではなく、[r]友人として、仲間たちを深く愛していた。 [k] @ 同じだ、とサーヴァントは歯がみをした。 [k] @ このマスターとカルデアのマスターは、[r]同じ立ち位置だったのだ、と。 [k] [messageOff] [wt 1.5] @マスター [line 3]……、[line 6]……。 [k] @ 呼吸が止まる。[r]最後の[#意識:ほし]が流れていく。 [k] @サーヴァント ……なにやってんだ、バカ。[r]おまえひとりで頑張りすぎだ。 [k] @マスター ……はは。君にそう言ってもらえるのは[r]嬉しいけど、それは違うよカイニス。 [k] @マスター 私ひとり、じゃない。 [k] [messageOff] [wt 1.0] @マスター 人間は、みんな頑張っているんだよ。 [k] @サーヴァント チッ。んなワケあるか。[r]壮大なイヤミ言ってんじゃねえぞ、キリ[line 5] [k] [messageOff] [wt 3.0] @ 返答はない。[r]彼の魂は、ここにはない。 [k] @サーヴァント ………………。 [k] @ サーヴァントは顔をあげてソラを見上げる。[r]飛び立つ鳥を見送るように。 [k] @ ……脳裏に浮かぶのは幾つもの過ち。[r]胸に響くのは乾く事のなかった憎しみ。 [k] @ 自らの行い、自らの過去を否定するつもりはない。[r]このような英霊として定義された己を卑下はしない。 [k] @ 我は人の世を[#嘲笑:わら]い、[#驕:おご]りたかぶり、[#蹂躙:じゅうりん]するもの。[r]その在り方は決して変わらない。 [k] @ 人間を憎み、神を憎み、正道を嫌い、外道を愉しんだ[r]自分を、“悪”だと高らかに笑うのみ。 [k] [bgmStop BGM_EVENT_110 3.0] @ その上で、それでも、 [k] [messageOff] [wt 1.0] @サーヴァント ああ[line 3] [k] @サーヴァント [line 3]オレが、バカだったよ。 [k] @ 自らの[#性:さが]が、人生が、すべて悪だとしても。 [k] @ 守られるべきものがあった事を、[r]彼女/彼は悔悟と共に思い出した。 [k] [messageOff] [wt 1.0] [se ad442] [wipeout rectangleStripUpToDown 1.0 1.0] [wait wipe] [scene 92601] [wt 1.0] [se ad960] [se ad961] [wipein rectangleStripDownToUp 1.0 1.0] [wait wipe] [se ad929] [effect bit_talk_kineus_np02] [wt 2.5] [se ad978] [wt 1.5] @ 稲妻の槍を[#携:たずさ]え、黄金の鳥が飛ぶ。 [k] @ 自らの栄光の為ではなく。 [k] @ この出会いに相応しい、英霊である事を示す為に。 [k] [messageOff] [fadeout black 2.0] [wait fade] [soundStopAll] [end]