$94-03-22-17-1-0 [soundStopAll] [charaSet A 1037000 1 紅閻魔] [charaSet B 98002000 1 フォウ] [charaSet C 1098162000 1 マシュ] [charaSet D 3032002 1 エレシュキガル] [charaSet I 5009000 1 エフェクト用ダミー] [charaSet J 5009000 1 エフェクト用ダミー2] [scene 69901] [fadein black 1.5] [wait fade] [bgm BGM_EVENT_66 0.1] [charaTalk A] [charaFace A 0] [charaFadein A 0.1 1] @紅閻魔 おや、ひとりでちか?[r]マシュや清姫は……温泉の掃除にいった、でちか。 [k] [charaFace A 1] @紅閻魔 おまえ様も含めて、皆ちゃん働きものでちね。 [k] @紅閻魔 よしよし。[r][%1]、ちょっとそこに座るでち。 [k] @紅閻魔 皆ちゃんが帰ってくるまでお茶を淹れてあげまチュ。[r]ちょっとした休憩でちよ。 [k] [messageOff] [charaFadeout A 0.4] [wt 1.0] [se ade3] [wt 0.7] [seStop ade3 0.2] [wt 0.4] [se ade162] [wt 0.2] [seStop ade162 0.1] [wt 0.6] @紅閻魔 気がつけば[#閻魔亭:えんまてい]も大きくなりまちた。[r]あ。でも、昔はもっと大きかったのでちよ? [k] @紅閻魔 強がりではありまちぇん。内装も、[#鶴:つる]の間が[r]あった頃はとても華やかだったのでち。 [k] @紅閻魔 お[#夕:ゆう]という腕の良い職人の[r][#機織:はたお]り名人がいたのでちがね。 [k] @紅閻魔 “月の光が呼んでいる”なんて呟いて、[r]部屋もそのままに飛び去ってしまったのでち。 [k] @紅閻魔 まったく。[#雀:すずめ]たちがお夕の作業風景でも[r][#覗:のぞ]いてしまったのでちかね? [k] [messageOff] [charaTalk A] [charaFace A 1] [charaFadein A 0.4 -16,0] [charaMove A 1 0.3] [wt 1.0] @紅閻魔 どうぞ、お茶が入ったでちよ。[r]秘蔵のモナカもご一緒に、でち。 [k] ?1:ありがとう ?2:いただきます ?! [messageOff] [fadeout black 1.0] [bgm BGM_EVENT_66 1.0 0.4] [wait fade] [charaFadeout A 0.1] [se ade161] [wt 1.0] [seStop ade161 0.2] [se adm25] [wt 1.0] [seStop adm25 0.2] [fadein black 1.0] [bgm BGM_EVENT_66 1.0 1.0] [wait fade] [wt 0.5] [charaTalk A] [charaFace A 1] [charaFadein A 0.1 1] @紅閻魔 のどかな昼下がりでちね。[r]こんな日がいつまでも続くといいのでちが。 [k] [charaFace A 7] @紅閻魔 ! 違いまちた、[r]今のはあちきだけの事情でちた。 [k] [charaFace A 3] @紅閻魔 [#閻魔亭:えんまてい]は穏やかでも、おまえ様の世界は[r]たいへんな事になっているのでちたね…… [k] [charaFace A 4] @紅閻魔 またやってしまいまちた。あちきは[#他人:ひと]様の[r]気持ちを[#推:お]し[#量:はか]るのが得意ではないのでち…… [k] ?1:紅閻魔はどんな英霊なの? [charaFace A 0] @紅閻魔 あちきのコト、でちか? [k] [charaFace A 1] ?2:自分もよく失敗する [charaFace A 6] @紅閻魔 そうなのでちか! [k] [charaFace A 1] @紅閻魔 いえ、喜んでいいコトではありまちぇんね。[r]でも、おまえ様のしてくれた心遣いは分かりまチュ。 [k] ?! @紅閻魔 違う世界、違う価値観。[r]おまえ様の世界、マシュの世界、玉藻たちの世界。 [k] @紅閻魔 世界は一つのようで、多くの仕切りがありまチュ。[r]人間の言う『地獄』もその一つでち。 [k] @紅閻魔 死後の世界をその社会での思想、道徳によって[r]解析し、機構にしたものが地獄でち。 [k] @紅閻魔 あちきが生まれた『地獄』と、[r]フィンちゃまの国の『地獄』は違うものでちょう。 [k] [charaFace A 0] @紅閻魔 人間はいずれ来る『死』に対して、生きているうちに[r]なんとか理屈を、理解を得たいと考えまちた。 [k] @紅閻魔 細かな格式、法律は民族ごとに違うものでちが、 [k] @紅閻魔 『悪人は死後、罰を受ける』[r]『善人は死後、救われる』 [k] @紅閻魔 この二点は万国共通の決まりでちょうね。[r]これらは生きている側の都合…… [k] @紅閻魔 『社会をよく回すため』の教えなので、[r]地獄そのものを語るものではありまちぇん。 [k] @紅閻魔 まっとうに生きていれば死んだ[#後:あと]も幸せは約束される。[r]だから[#浄:きよ]く正しく生きなさい、といった、 [k] @紅閻魔 ごく当たり前の、そうあるべき道徳からきた[r]お話でち。 [k] [charaFace A 9] @紅閻魔 そんな人間たちの都合や善悪の[#秤:はかり]は、[r]地獄にとっては関係のない話なのでちが…… [k] [charaFace A 10] @紅閻魔 ……あちきたちの地獄は流行に敏感なので、[r]人間たちの宗教観を取り入れる事も多いのでち。 [k] @紅閻魔 大昔は地獄と現世は地続きだったとも聞きまチュ。[r]あちき個人としては落ち着きのない死の国だと思いまちが。 [k] [messageOff] [fadeout black 0.3] [bgm BGM_EVENT_66 0.3 0.1] [wait fade] [charaFadeout A 0.1] [charaTalk D] [charaFace D 0] [charaFadein D 0.1 1] [scene 69700] [wt 0.1] [fadein black 0.3] [wait fade] [wt 0.7] [charaMove D 0,-3 0.1] [charaFace D 2] [wt 0.1] [charaMove D 0,0 0.1] [wt 0.2] [charaFace D 11] [wt 1.0] [fadeout black 0.3] [wait fade] [charaFadeout D 0.1] [charaTalk A] [charaFace A 0] [charaFadein A 0.1 1] [scene 69901] [wt 0.1] [fadein black 0.3] [bgm BGM_EVENT_66 0.3 1.0] [wait fade] @紅閻魔 人間社会は死を克服できないかわりに、[r]死は特別なものではない、死は恐れるものではない、 [k] @紅閻魔 という教えに移り変わりまちた。[r]その時点で、地獄の在り方も変わったのでち。 [k] [charaFace A 10] @紅閻魔 率直に言ってしまえば“人気の落ちた幻想”に[r]なったのでち。 [k] @紅閻魔 人間たちは地獄を[#畏:おそ]れず、また必要と思わなくなった。[r]地獄という存在に救いを求める事はなくなった。 [k] [charaFace A 4] @紅閻魔 いわば、地獄はもう時代遅れの世界なのでち。[r]あちきはそんな地獄で育った英霊でち。 [k] @紅閻魔 地獄で修行をして、獄卒になって、[r]閻魔大王様の[#名代:みょうだい]として[#閻魔亭:えんまてい]を任されまちた。 [k] [charaFace A 7] @紅閻魔 身に余る光栄でちよね!? [#紅:べに]もそう思ったでち。[r]なので、できる範囲で頑張りまちた。 [k] [charaFace A 4] @紅閻魔 一度、人里に下りてしまい、[r]人間に捕まった事もあったのでちが…… [k] [charaFace A 6] @紅閻魔 今はこの通り、立派な[#閻魔亭:えんまてい]の女将なのでち! [k] [charaFace A 4] @紅閻魔 ……いえ、違いまちね。[r]立派、ではありまちぇんでちた……。 [k] @紅閻魔 …………じつのところ。 [k] @紅閻魔 [#閻魔亭:えんまてい]は、とっくの昔に[#畳:たた]む予定だったのでち。 [k] @紅閻魔 人間が迷い込む事もなくなった。[r][#八百万:やおよろず]の神様もやってくる事はなくなった。 [k] @紅閻魔 地獄も、お宿も、もう現世には必要のないもの。[r]近代になった時点で、[#閻魔亭:えんまてい]は役割を終えているのでち。 [k] ?1:………… ?2:でも、[#閻魔亭:えんまてい]はいいところだよ [messageOff] [wt 0.5] [charaFace A 11] [wt 1.0] ?! [charaFace A 1] @紅閻魔 気遣いは無用でちよ。[r][#閻魔亭:えんまてい]が無くなっても、誰も困らないのでちから。 [k] @紅閻魔 今の問題はおまえ様がたの天罰だけでち。[r]それも、この調子なら無事終わるでちょう。 [k] [charaFace A 6] @紅閻魔 だから、[#閻魔亭:えんまてい]は今年でお役御免でち! [k] @紅閻魔 閻魔大王様からも『もう帰ってきていい』と[r]言われていまチュからね! [k] ?1:そっか(同意) [label lblSel1_1] [charaFace A 1] @紅閻魔 そうなのでち。なので、おまえ様がたは[r]奉納殿の神気を元に戻す事だけを考えなちゃい。 [k] @紅閻魔 ぜんぶうまくいった暁には[#閻魔亭:えんまてい]一日貸し切りでち![r]今まで働いた分、思いっきり遊ぶといいでちよ! [k] [messageOff] [fadeout black 2.0] [bgmStop BGM_EVENT_66 2.0] [wait fade] [branch lblSel1_3] ?2:……でも、続けたいん[&だろう:でしょう]? [label lblSel1_2a] [bgmStop BGM_EVENT_66 2.0] [charaFace A 4] @紅閻魔 それは…… [k] [branch lblSel1_2b] ?! [label lblSel1_2b] ?1:紅閻魔は、なんで[#閻魔亭:えんまてい]を続けている[&んだ:の]? ?! [label lblSel1_2c] @紅閻魔 それは[line 3] [k] [messageOff] [fadeout white 1.0] [wait fade] [charaFadeout A 0.1] [scene 47002] [charaEffect I bit_sepia01] [pictureFrame cut063_cinema] [wt 0.7] [fadein white 1.0] [wt 0.5] [bgm BGM_EVENT_11 0.1] [wait fade] @ それは昔々の、それほど昔ではないお話。 [k] @ [#遊郭:ゆうかく]から逃げ出した[#禿:かむろ]が一匹、[r]息を切らして山奥へ消えました。 [k] @ あまりに必死に駆けたのでしょう。[r][#禿:かむろ]は霧深い山中にある、りっぱな屋敷に迷い込みます。 [k] [messageOff] [wipeout leftToRight 1.0 0.5] [bgm BGM_EVENT_11 1.0 0.4] [wait wipe] [scene 46800] [wt 1.0] [wipein rightToLeft 1.0 0.5] [bgm BGM_EVENT_11 1.0 1.0] [wait wipe] @ そこにあったものは、今まで目の前にありながら、[r]決して手の届かなかった光景でした。 [k] @ 暖かな布団。たくさんのご馳走。[r]叱りつける大人たちのいない世界。 [k] @ 誰もいなくて屋敷がひとりぼっちなことだけは[r]気になりましたが、 [k] @ 庭には多くの[#雀:すずめ]が遊んでいたので、[r]お屋敷もさみしくはないだろう、と笑いました。 [k] @ まるで夢を見るように、[#禿:かむろ]は息を呑みながら、[r]ふらふらと揺れながら、いくつものお座敷を巡ります。 [k] @ [#禿:かむろ]は手を合わせて仏様に感謝しました。 [k] @ “死ぬ前に、屋根をくれてありがとう”[r]“最後に、きれいなものを見せてくれてありがとう” [k] @ [#禿:かむろ]は美しいお屋敷の在り方に涙を浮かべて[r]息絶えました。 [k] @ 何日も食べていなかったのです。[r]体もぼろぼろだったのです。 [k] @ お腹が減ってしにそうだったのです。 [k] @ でも、遊郭での生活で舌を抜かれて、[r]喉が潰されていたものだから。 [k] @ たくさんのご馳走があっても、[r][#禿:かむろ]は、それを口にする事ができなかったのです。 [k] [messageOff] [fadeout black 2.0] [bgmStop BGM_EVENT_11 1.0] [wait fade] [scene 37312] [se ade237] [wt 1.0] [seStop ade237 1.0] [wt 0.5] [fadein black 1.0] [wait fade] [bgm BGM_MYROOM_4 0.1] [wt 0.3] @ [#禿:かむろ]が目を覚ますと、[r]そこは地獄の入り口、[#賽:さい]の河原でした。 [k] @ あまりに[#不憫:ふびん]に思った御仏の慈悲か、[r]屋敷で何も食べなかったおかげなのか。 [k] @ [#禿:かむろ]は死者ではなく、[#雀:すずめ]の鬼として、[r]大昔の地獄に生まれ直したのでした。 [k] @ [#雀:すずめ]はその赤い色の髪にちなんで[#紅:べに]という名前を[r]あたえられ、[#賽:さい]の河原でもよく働きました。 [k] @ 真面目におつとめをはたすこと[#幾星霜:いくせいそう]。 [k] @ [#雀:すずめ]は閻魔大王に認められ、その[#名代:みょうだい]として、[r]地上の『迷い家』を任されたのです。 [k] @ “迷い家はおまえだったものが息を引き取った場所。[r][f small] [f -]庭先の[#雀:すずめ]たちも、おまえであれば従うと言っている” [k] [messageOff] [fadeout black 1.0] [wait fade] [scene 46800] [wt 1.0] [fadein black 1.0] [wait fade] @ [#雀:すずめ]は閻魔大王の言いつけ通り、[r]真面目に『迷い家』をもり立てました。 [k] @ ですが…… [k] @雀 “山から下りてみたいのでち。[r][f small] [f -]人間の暮らしを見たいのでち” [k] @ 鬼となった今も以前の名残があったのでしょう。[r][#雀:すずめ]は人恋しくて人里に下りてしまいます。 [k] [bgmStop BGM_MYROOM_4 3.0] [messageOff] [fadeout black 1.0] [wait fade] [scene 46100] [wt 1.0] [fadein black 1.0] [wait fade] @いじわるなおばあさん “これは珍しい、火のように真っ赤な[#雀:すずめ]だよ!”[r]“叩くと人の声で鳴く、世にも珍しい[#雀:すずめ]だよ!” [k] @ [#雀:すずめ]は驚きのあまり、[r]自分が鬼である事も忘れて縮こまってしまいました。 [k] @ そういえば。[r]むかし何度も、こんな事があったような。 [k] [bgm BGM_EVENT_98 3.0] @お爺さん “ほうほう、それは確かに珍しい”[r]“お[#隣:となり]さんや、お隣さんや。儂に[#譲:ゆず]ってくださらんか” [k] @ それは村で、なんとなく遠巻きにされていた[r]お爺さんでした。 [k] @ お爺さんがなぜ村人から疎遠にされていたかというと、[r][#実益:いみ]の無い事にも精を出す変わり者だったからです。 [k] @ この時の行いもそのひとつ。 [k] @ お爺さんは、さみしい、さみしい、と鳴く[#雀:すずめ]と、[r]長年貯めた自分の[#蓄:たくわ]えのほとんどを取り替えたのです。 [k] @雀 “お爺さんはなんであちきを助けたチュン?”[r]“人間は、得にならない事はしないチュン?” [k] @お爺さん “儂にも分からんなあ”[r]“ただ、まわりが不幸せなのはよくない事だろう?” [k] @ お爺さんは傷ついた[#雀:すずめ]に手当をすると、[r]なんでもない事のように山に帰しました。 [k] @ “もう捕まるんじゃないよ”と笑いながら。 [k] @ それからしばらくたった頃。[r][#雀:すずめ]はお爺さんが困っている事を知りました。 [k] @ [#年貢:ねんぐ]が払えず、村人たちからの助けもなく、[r]ひもじいまま亡くなろうとしているのです。 [k] [messageOff] [fadeout black 1.0] [wait fade] [scene 69500] [wt 1.0] [fadein black 1.0] [wait fade] @雀 “よくいらっしゃいました、お客様”[r]“ここは[#閻魔亭:えんまてい]。善き心を招く隠れ里でち” [k] @ 山中でひとり旅立とうとしたお爺さんを、[r][#雀:すずめ]は迷い家に招きました。 [k] @ お爺さんは[#雀:すずめ]に感謝し、[r]楽しい時間を過ごしました。 [k] @ でも[#雀:すずめ]はもっと楽しかったのです。 [k] @ あの時助けられた喜びは、[r]もっともっと大きいものだったのですから。 [k] @ [#雀:すずめ]はいつまでもお世話するつもりでした。[r]でも、お爺さんは里に帰ると言うのでした。 [k] [messageOff] [fadeout black 1.0] [wait fade] [scene 46800] [wt 1.0] [fadein black 1.0] [wait fade] @雀 “あなたは一羽の[#雀:すずめ]を助けました。[r][f small] [f -]そのお礼に、この[#葛籠:つづら]を差し上げましょう” [k] @ [#雀:すずめ]は迷い家の決まりに[#倣:なら]い、[r]二つの葛籠を用意しました。 [k] @ 大きい葛籠と小さな葛籠。 [k] @ お爺さんはもう充分だと断りましたが、[r]受け取らなければ帰せない、と[#雀:すずめ]は脅します。 [k] @ お爺さんは申し訳なさそうに小さな葛籠を選び、[r]自分の世界に帰って行きました。 [k] @ その後。お宿から持ち帰った葛籠からは[r]毎日、[#慎:つつ]ましい量の幸が満ちるようになり、 [k] @ お爺さんは穏やかに、幸せに暮らしたとさ。[r]めでたし めでたし [k] [messageOff] [fadeout black 1.0] [bgm BGM_EVENT_98 1.0 0.4] [wait fade] [wt 1.5] @紅閻魔 でも、それは嘘なのでち。[r]なに一つ嘘ではないのでちが、嘘だったのでち。 [k] [scene 27000] [messageOff] [fadein black 1.0] [bgm BGM_EVENT_98 1.0 1.0] [wait fade] @ お宿から帰ってきたお爺さんは、[r]村の噂になりました。 [k] @ 『もう何年も前に消えた爺が、[r] あの頃のままの姿で戻ってきた』 [k] @ 『しかも妙に身なりがいい。[r] 何があったか話を聞いてみようじゃないか』 [k] @ 村人たちはめずらしさ半分、[r]うらやましさ半分でお爺さんの家に押しかけます。 [k] @お爺さん “なに、山の地蔵さまのお導きだよ。[r][f small] [f -]これから正直に生きるなら幸をやろう、と言われてねぇ” [k] @ 賢明なお爺さんは[#雀:すずめ]の事は話さず、[r]かといってすべてを隠そうともせず、 [k] @ お宿であった様々な[#奇想天外:きそうてんがい]、[r]楽しく、愉快だった事をみなに語りました。 [k] @ それが人生の助けになるように。[r]つらい毎日における、或るお[#伽噺:とぎばなし]になるように。 [k] [messageOff] [scene 45810 1.5] [wt 2.0] @ 多くの村人が目を輝かせました。[r]多くの村人がお爺さんを[#羨:うらや]みました。 [k] @ お爺さんが迷い込んだお宿を探したものもいます。[r]なくしたものが戻るように願ったものもいます。 [k] @ 正しく生きようとするものも、[r]自分に正直に生きることにしたものもいます。 [k] @ 正直に生きながら、時に道を踏み外し。[r]妬ましさに目を曇らせながら涙を拭い。 [k] @ 多くの、小さくて、身勝手で、あてのない、[r]日々の糧となる夢を見たのです。 [k] @ そのすべてが叶うことはなかったけれど、[r]村人たちの多くは報われました。 [k] @ それもそのはず。[r]お爺さんは彼らの夢が叶うよう、 [k] @ 葛籠の幸のすべてを、[r]彼らのために使っていたからです。 [k] @ 村は栄えました。村人たちは裕福になりました。[r]貧しさからいがみあっていた人達も仲良くなりました。 [k] @ 村は本当に、誰も彼もが幸福な、[r]温かな世界になったのです。 [k] @ ただひとり。 [k] @ いつまでも『変わり者』として[r]遠巻きにされていた、お爺さん以外は。 [k] [messageOff] [fadeout black 1.5] [wait fade] [scene 46401] [wt 1.0] [fadein black 1.5] [wait fade] @雀 “おかしいでち。こんなのおかしいでち!” [k] @雀 “なんでみんなに言わないでちか![r][f small] [f -]みんなが幸せなのはお爺さんのおかげだって!” [k] @ 村がどれだけ栄えても[r]お爺さんの暮らしは変わりません。 [k] @ 月の光だけが明るいお爺さんの囲炉裏で、[r][#雀:すずめ]はいつかのように鳴きました。 [k] @お爺さん “おまえたちの幸せは誰かのおかげだ、なんて[r][f small] [f -]言われても嬉しくないだろう?” [k] @お爺さん “うまくいっているならいいんだよ。[r][f small] [f -]儂が口をあけても、誰も幸せになれないからねぇ” [k] @雀 “違うでち。お爺さんが黙っていることで[r][f small] [f -]みんな幸せになっているのでち!” [k] @雀 “でも、肝心のお爺さんだけが[r][f small] [f -]幸せになっていないのでち!” [k] @ お爺さんは財宝をみんなのために使いました。 [k] @ 良い事をすれば幸せになれる、という希望を示し、[r]そうするために嘘をつき続けました。 [k] @ 多くの作り話。多くの[#法螺:ほら]話。多くのお[#伽噺:とぎばなし]。 [k] @ たくさんの愉快な嘘を本当にするたびに、[r]お爺さんは現実に取り残されていくのです。 [k] @ 気がつけば、村人はみな幸福な人生の終わりに[r]さしかかっていて、 [k] @ お爺さんは[#法螺:ほら]話を語るだけの変わり者として、[r]最後まで独りきり。 [k] [messageOff] [scene 42400 2.0] [wt 2.5] @ お爺さんは独りのまま亡くなりました。[r]でも、その死に顔はとても幸せそうなのです。 [k] @ [#間際:まぎわ]を看取った者はひとりもいませんでしたが、[r]その葬列はとても華やかなものでした。 [k] @ お爺さんの訃報を聞いて、[r]多くの村人が集まってきたからです。 [k] @ その中には隣の村の、[r]そのまた隣の村の顔ぶれがありました。 [k] @ 別に、誰がお爺さんの[#善意:うそ]に気付いていた[r]訳ではないのだけど。 [k] @ お爺さんの作り話で救われた人々が、[r]笑顔でお礼を言いに来たのです。 [k] @ こんなに幸せなお別れがあるでしょうか。[r]みんながみんな、お爺さんに感謝しています。 [k] @ お爺さんが望んだ通り、[r]誰も不幸せになっていないのです。 [k] @ 最高の臨終。最高の晴れた空。[r]悲しい事など、なにもないのに[line 3] [k] [messageOff] [charaPut J 1200,1200] [charaEffect J bit_talk_spotlight] [charaScale J 1.4] [fadeout black 2.0] [bgmStop BGM_EVENT_98 2.5] [wait fade] [scene 10000] [charaEffectStop I bit_sepia01] [pictureFrame] [charaPut J 0,100] [charaTalk A] [charaFace A 12] [charaScale A 1.4] [charaFadein A 0 0,-20] [wt 1.5] [fadein black 2.0] [wait fade] [wt 0.7] @紅閻魔 でも悲しいのでち。とても悲しいのでち。 [k] @紅閻魔 だれもお爺さんに、[r]幸せをあげられなかったのでち。 [k] @紅閻魔 だれも、だれも、[r]あの笑顔に報いてあげられなかったのでち。 [k] @紅閻魔 どんな嘘も、どんな作り話も、[r]自分のために作られたものではなくて[line 3] [k] @紅閻魔 最後まで、名前もないまま、[r]多くの人たちの幸福を見届けたのでち。 [k] [messageOff] [fadeout black 2.0] [wait fade] [charaPut J 1200,1200] [charaEffectStop J bit_talk_spotlight] [charaFadeout A 0.1] [charaScale A 1.0] [charaScale J 1.0] [wt 0.5] [fadein black 0.1] [wait fade] @紅閻魔 ……[#雀:すずめ]のお宿になんて、[r]人間なんて、招くべきではなかったのでち。 [k] @紅閻魔 結果的に、[#紅:べに]はお爺さんを[r]不幸にさせただけなのでち。 [k] @紅閻魔 だから……だから[line 3] [k] [messageOff] [wt 0.7] [fadeout white 2.0] [wait fade] [charaTalk A] [charaFace A 12] [charaFadein A 0.1 1] [scene 69901] [wt 1.0] [fadein white 1.0] [wt 0.5] [bgm BGM_EVENT_95 0.1] [wait fade] @紅閻魔 [line 3]だから、ちゃんと恩を返したいのでち。 [k] @紅閻魔 [#閻魔亭:えんまてい]は過去と未来に繋がる異界……。 [k] @紅閻魔 [#閻魔亭:えんまてい]を続けていれば、迷い家として残っていれば、[r]いつかまた会えるかもしれまちぇん。 [k] @紅閻魔 [#閻魔亭:えんまてい]は、もう誰にも求められていまちぇんが…… [k] @紅閻魔 [#紅:べに]は、お爺さんにもう一度会いたいのでち。 [k] @紅閻魔 あの優しい笑顔を見たいのでち。[r]愉快で温かいお話を聞きたいのでち。 [k] @紅閻魔 あんなに苦手だった料理も、[r]うまくなったと褒めてほしいのでち[line 3] [k] [messageOff] [wt 0.7] [fadeout white 2.0] [bgmStop BGM_EVENT_95 2.0] [wait fade] [charaFadeout A 0.1] [wt 1.5] [scene 69901] [fadein white 1.0] [wait fade] [bgm BGM_EVENT_2 0.1] [charaTalk A] [charaFace A 3] [charaFadein A 0.1 1] @紅閻魔 ……みっともないところを見せてしまいまちたね。[r]訳もなく泣き出チュとか、驚いたでちょう? [k] [charaFace A 1] @紅閻魔 [#閻魔亭:えんまてい]の事を気遣ってくれてありがとうでち。 [k] @紅閻魔 今年で閉めるといいまちたが、あちきも[r]そこまで捨て鉢になってはおりまちぇん。 [k] @紅閻魔 人生[#万事:ばんじ][#塞翁:さいおう]が[#馬:うま]。[r][#雀:すずめ]は[#雀:すずめ]なりに頑張ってみるでちよ。 [k] [messageOff] [charaFadeout A 0.7] [se ade247] [wt 1.5] [seStop ade247 0.3] [wt 0.5] [charaTalk B] [charaFace B 0] [charaFadein B 0.1 1] @フォウ ………………。 [k] [charaFadeout B 0.1] [wt 0.1] [charaTalk C] [charaFace C 4] [charaFadein C 0.1 1] @マシュ ……わたしたちには事情を知る由もありませんが…… [k] [charaFace C 7] @マシュ 紅閻魔さんにとって、[r][#閻魔亭:えんまてい]はとても大切な場所である事だけは分かりました。 [k] @マシュ マスター。五つの宝をすべて集めて、[r]竹取の翁にお返しできるよう、頑張りましょう! [k] [messageOff] [fadeout black 2.0] [bgmStop BGM_EVENT_2 2.0] [wait fade] [label lblSel1_3] [wt 1.0] [soundStopAll] [end]